旅立つ前に
ベナンバスの旅
2006年8月19日に乗車
ベナン最大の都市コトヌーと、中部の主用都市パラクーを結ぶ道路は、交通量も多く人の往来も激しい。日本で言えば、東海道や東名高速道路にあたるだろう。そのくらい重要なルートであるように思う。しかもこのルートは、パラクーから先は国境を越えてニジェールまで続いており、いわば交通の大動脈でもある。
コトヌーとパラクーの2都市間を最も早く移動するのは、バスだと言われた。国内航空路線はベナンには無く、鉄道の所要時間は10〜12時間と、バスの所要時間の7時間よりも長いうえ、週に3往復のみの運行である。満席になってから出発する乗合タクシーはいつ出発するかわからないし、座席も窮屈。そう考えれば、バスがもっとも効率のよい移動手段となるだろう。ベナンのビジネスマンのなかにもバスを好んで選んでいる人もいるし、おまけにアフリカのバスは猛スピードで飛ばすため、予定時刻よりも早く着くことがある。
とりあえず、バスの運賃と時刻を確認、そして予約も兼ねて、Saint RitaにあるConfort Lines というバス会社のオフィスを訪ねる。ベナン国内のバスは民営会社2社によって運営されており、国営のバス会社は私が渡航していたときには無かった。今回訪ねたオフィスはその2社の1つである。(もう1つはBenin Routeというバス会社。)パラクー行きは毎朝7時発、所要約6時間半〜7時間で、運賃は5,500CFA(約1,400円)と言われた。陽のあるうちに向こうに到着できることで安心した私は、バスでパラクーに行くことにした。
出発の朝、夜明け前だがすでにバスが到着していた。バスのまわりには、水やパン、その他食料などを売る人たちがたくさん商売していた。さて、バスに乗りこむ。席は指定席だが、私の席は前の方の列だったので、前面展望が楽しめる“特等席”だった。出発時刻が近づくとだんだんと客が集まり始め、ほぼ定刻通りバスが出発した。
途中の道路は、コトヌー中心部に向かう車、つまり私が乗っているバスと反対方向に進む車で渋滞していた。どこの国にも、通勤ラッシュというものはあるものである。
途中コトヌー近郊で3箇所停車し、乗客を乗せ、ほぼ席がうまった。ここからバスは一気にパラクーを目指してスピードを上げる。扉は開けたまま。エアコンは壊れているようで、窓を開けて走る。そして、アフリカのバスではずせないのは、車内で流される音楽だ。運転手の独断でテープがかけられるのだが、現地の流行曲が流されるので、狭い車内で体かひとりでに動き出す乗客も見られた。
しばらくすると、草原と畑の風景が車窓に広がる。ベナンは急峻な山は少ないが、所々丘を上がったり下がったりする。丘の上から広いアフリカの大地の壮大さを見たときは、どのような言葉で表してよいかわからない。感動を覚えるすばらしいものだったとしか言いようがない。
出発して2時間半くらいたった頃、ボイコン(Bohicon)という街で休憩となる。街のとある広場がバスターミナルのようになっており、そこに物売りの人がバスの到着を心待ちにしている。バスの乗客に飲食物を売るのが彼らの目的であるようだ。バス周辺はまるで市場さながらである。私はオレンジを買った。2個50CFA(約12円)。ベナンで売られているオレンジは、食べるというより中の汁を吸って飲むのである。そのため、絞りやすいように外の皮をナイフでむいて、中の白い部分が見えた状態で売られている。ところ変われば、食べ方も違う。これもまた食文化の違いだ。
バスでは軽食と水のサービスがあった。軽食は、肉や野菜を炒めたものをフランスパンで挟んだものである。なかなか美味い。水はビニールで密封された袋詰めの水だが、水道水や生水などではないので、飲んでも支障はない。
ところが、これらのゴミを乗客は平気で窓からポイ捨てする。水が配られたときにゴミ袋も一緒に配られたのだが、みんな窓から平気でゴミを捨てる。生ゴミならまだいいが、ビニールなども平気で捨てるため、道路脇には今までに捨てられたごみが残されたままになっている。こんなことを黙認していては、ベナンの道路沿いはみなゴミだらけになってしまうのに、皆はそれに気づかないのだろうか。
途中ゾマホン氏の故郷でもあるダサズメを通過する。ところが、道は渋滞しており、やたらと人が多く、道の脇にはキリストが描かれた絵がたくさん売られている。ヨーロッパからの観光客も見られる。実はダサズメはベナンのキリスト教信者の聖地であり、毎年8月中旬に祭典が行われ、多くの巡礼客が訪れるのだという。これはまた珍しいものを見れたのだが、私が乗車しているバスはパラクーまで乗降扱い無し。休憩もしないので、車窓観光となってしまった。
再び加速してパラクーを目指す。コトヌーを出発してからは信号が無く、所々にある集落や都市を除いて、ひたすら草原や畑の中を突っ走る。一見北海道の田舎を走っているようにも見れる。車の数もそれほど多くないので、とにかくバスは飛ばす。前を走っている車があれば、あたかも「どけ!バスが通るぞ!」と大きなクラクションを何度も鳴らして追い越して行く。このバス旅こそがベナン流、いやアフリカ流である。レーシングゲームのようなハラハラ感がこみ上げてくる。
パラクーまであと少しというところで、料金所がある。ベナンでは、一般道路でも料金所があり、料金収入は道路の維持にあてられるという。ここでまた少し休憩するのだが、ここにも物売りの人がいた。皆バスがどのあたりで休憩するのか知っているようで、トイレや外の空気を吸うために出てきた乗客に、菓子やら果物やらを売っていた。
そんなこんなでバスは再び北上を続け、午後2時ごろ、パラクーのバスターミナルに到着した。すでに出迎えの者やバイクタクシーが待ち構えており、乗客はそれぞれの目的地に向かっていった。