旅立つ前に
ベナン鉄道の旅
2006年8月25日に乗車
ベナンにもちゃんと鉄道が走っている。ただ、日本のそれとは運行本数やシステムなどがガラリと違う。運行本数は週3往復、扉は開いたまま、ヤギやニワトリなどの家畜も同乗するなど、日本では考えられない側面に驚かされた。一方で、各駅で惣菜や農産物が売られているのをながめ、何を買おうか迷ったり、沿線で列車に手を振る子供たちを見て自分も思わず笑顔になったりと、楽しませてくれる側面も持ち合わせている。これが、私がベナンの鉄道に乗車した印象である。
ベナンの鉄道は、南部最大の都市コトヌー(Cotonou)と、中部のパラクー(Parakou)間の437kmを結んでいる、単線非電化の鉄道である。ベナン・ニジェール鉄道輸送共同体が運営しており、将来はニジェールの首都ニアメまで延伸する計画がある。
私はパラクーからコトヌーに戻るとき、この路線を利用することにした。出発の前日、運賃やダイヤの確認と、駅の様子を観察するため、パラクー駅を見学させてもらった。訪問時は貨物の積み下ろし作業が行われており、コトヌーから運ばれてきたと思われるものがたくさん並べられていた。中には、中国からの輸入品も含まれていた。ところで、気になる運賃と出発時刻はというと、4,000CFAフラン(約1000円)で、毎週水、金、日曜の8時47分に出発するとのことであった。
出発の朝、切符を買うために出発時刻の1時間前に到着した。すでに乗客が何人も駅で待機していた。窓口で切符を買い、しばらく待っていると、何のアナウンスもなく列車がホームに入ってきた。ホームといっても、日本のような少し高さのあるものでなく、地面をコンクリートで固めただけである。そのため、列車に備え付けてあるステップや手すりをつかって乗りこむため、足腰の弱い人にとってはひと苦労であろう。
出発の8時47分になっても、発車する気配はない。そもそもアフリカの鉄道は時刻表どおりに運転されないと聞いてはいたが、いざ自分が乗っている列車が遅れるとなると、おもしろくもあり、無事終点につくのかハラハラさせられる。幸い(!?)なことに、約20分後に発車した。
パラクーを離れると、車窓に草原や畑が広がる。時折小さな集落や道路を走る車が見えるが、それら以外の人工物はあまり見られなかった。また、437kmの行程で、トンネルが1つもなかった。西アフリカは急峻な山が少ないと聞いてはいたが、確かに、沿線にはせいぜい小高い丘くらいしか見かけない。大きな川も2箇所しか渡っていないため、改めて島国である日本と、大陸国であるベナンの違いを見せつけられた。
駅に停車するたびに、ホームには必ず物売りたちが待っており、車内の乗客に声をかけてくる。葉に包んだ惣菜や、あげパンのようなもの、ヤムイモ、手工芸品など、買い物しなくても見るだけで楽しめる。ただ私と違って、売る方は必死である。扉だけでなく開いた窓のあるところに寄っていき、少しでも多くのものを売るために、いろんな客に声をかける。駅を出発してからも、OCBNの職員がドリンク類を販売しているほか、どこかの商売人がお菓子やら食べ物やらを売り始めた。飲食物の入手には困らないので、乗客にとっては非常にありがたい。
景色にも飽きてきた昼下がりに、ボイコン(Bohicon)という駅に着く。ここで大半の乗客が下車し、空いた席に新たな客が座る。ここでは20分も停車し、乗務員の大半も休憩していた。
さらに列車は南下し、コトヌーを目指す。途中パイナップルを売る中年女性が乗車してきた。この女性が乗車してきたのはアラダ(Alada)というところで、おいしいパイナップルの産地として有名なところだ。彼女が山のようなパイナップルを抱えていたのには驚いたが、そのパイナップルを売買し、きっちりと商売まですませる用意周到さには脱帽である。買い求めた乗客も、アラダ産のパイナップルを手に入れて満足しているようであった。
ところで、パラクー近くの駅近郊で見られたヤムイモが、コトヌーに近づくに連れて見かけなくなった。後からわかったことだが、ヤムイモがつくられるのはベナンの内陸部に限られ、海岸部ではつくられていないらしい。そのため、海岸部でのヤムイモの値段は内陸部よりも割高になるのだそうだ。そうか、乗客がやけにヤムイモを大量に買い込んでいたが、海岸部では手にいれにくいから大量に買い込んでいたのか。そう考えると、ベナンの風土の違いを感じさせてくれた貴重な機会である。ベナン鉄道の旅は、そんな「地理学」の要素も含んでいるようである。
夕刻になると、車窓から見える車やバイク、人の数が多くなってきた。まもなく、終点のコトヌー到着である。しかし、各駅での停車時間が長い。遅れがどんどん大きくなる。なぜそうなるのかわからなかったが、駅の様子をよく見ていると、荷物の積み下ろしに時間がかかっており、これをいくつもの駅で行っていたために遅れが生じていたのである。やっと謎が解けた。
19時31分、定刻よりおよそ90分遅れて終点のコトヌーに到着。月明りが街を照らす頃、ベナンの鉄道の旅は終わった。