Published on
検証:外務省の海外安全ホームページに異議あり~ベナンは危険になったのか~
今年7月23日より、外務省が発表している「海外安全ホームページ」で、ベナンにも「十分注意してください」の危険情報が出された(12月3日現在も発令中)。これにより、山吹色、黄色、橙色、赤色と4つのカテゴリーに分けられた危険度を示す色のうち、「十分注意してください」を示す山吹色がベナンの地図につけられることとなった(参考:ベナンに対する渡航情報(危険情報)の発出)。これまでは白、つまり危険情報が出ていなかったベナンの地図だった。筆者の知る限り、危険情報が発令されたのはここ7、8年で初めてある。大統領選挙のときでさえも、平常時は24時間開いている国境が、夜間閉鎖されるといった情報が詳細欄に追加されたくらいである。それくらい、ベナンの治安はアフリカ諸国の中でも非常に安定しているのである。
では、ここ数ヶ月で急にベナンの治安が悪くなったのか。答えは、Noである。ただ、外務省が発表する危険情報は、治安に限ったことではない。外務省によると、「危険情報は、渡航・滞在にあたって特に注意が必要と考えられる国・地域に発出される情報で、その国の治安情勢やその他の危険要因を総合的に判断し、それぞれの国・地域に応じた安全対策の目安をお知らせするもの」とある。ベナンの場合は、「治安情勢」より、むしろ「その他の危険要因」が、今回の危険情報の発令に至ったと考えられる。
詳細を読んでみると、明らかにおかしな点が多い。まず、「ナイジェリアとの国境地帯では、日常的に凶悪犯罪が発生しています」や、「領土をめぐる対立により、ブルキナファソ、ニジェールとの国境付近で緊張が高まったとの情報もあり」とあるが、EU域内などの特殊な場合を除いて、国境地帯はたいてい情勢が安定していないのである。ベナンの国境が特殊と言うわけではない。次に、「観光客を狙った武装強盗等の凶悪犯罪が発生しているため、夜間の外出はしないよう心掛ける」とあるが、海外旅行で夜中に外出しないのは基本中の基本である。この基本が守れないようでは、仮に身ぐるみはがされたとしても仕方がないのである。さらに、「現地の運転マナーは悪く、2008年5月にアボメイ市内で発生した乗合タクシーの事故により、乗車中の邦人が重傷を負っています。」とある。事故については非常に残念な話だが、交通事故はベナンに限らず、日本にいても起こりうる話である。にもかかわらず、ベナンにだけ注意を促すのはおかしなことで、危険情報の信憑性も疑いかねない。
では、なぜこのような情報を外務省は出しているのだろうか。ウェブサイトを見てみると、「ベナンには、日本国の在外公館が設置されていないため、緊急の事件・事故が発生した場合の迅速な対応が困難ですので、御留意ください。」とあることからも、緊急時の迅速な対応が難しいことが伺える。確かに、大使館職員がコートジボワールからベナンに向かうとすれば、大きな苦労が付きまとう。陸路では国境をいくつも越えなければならないし、空路も毎日飛行機が飛んでいるわけではないので、いつ動けるかもはっきりしない。だからといって、危険情報のみを出し続けることで、緊急時の迅速な対応が困難な状況を解決できるというわけではない。
実際に大使館を新たに設置してみるのもどうであろうか。現在コートジボワール大使館が兼轄しているベナンに日本大使館を設置するとなると、緊急時の迅速な対応は現在よりもとりやすくなるだろう。しかし、これで全てが解決するだろうか。
私が思うのは、多くの日本人が偏った先入観でアフリカ諸国を見ているのではないだろうか。最近はソマリアで日本人が誘拐され、ソマリア近海では海賊が大きな問題になっている。また、コンゴ民主共和国東部でも再び情勢が緊迫している。このソマリアやコンゴ民主共和国の問題を十把一からげにして考え、「アフリカ=危険なところ」と思い込んでいる人が多く、そのような人の中には、海外安全情報を作っている外務省で働く一部の人も含まれているからではないだろうか。だからこそ、ベナンのような安全な国でも危険な情報が出されたりするのではないだろうか。
もう一度振り返る。
「国境地帯は一部を除いて、緊張しているのが普通である。」
「海外旅行で、夜間の外出を避けるのはあたりまえで、多くのガイドブックにも書かれている
「自動車などの事故は日本でも起こりうる。」
このようなことは、よく考えてみれば当然のことである。この当然のことをきちんと踏まえておけば、アフリカ諸国で危険情報が出されていたとしても、本当に危険かそうでないかは、ある程度は自分で判別できるのである。
アフリカ諸国の中には、先述のソマリアやコンゴ民主共和国のような情勢不安定な国は確かに存在する。しかし、そのようなところは、アフリカ諸国の中でも少数であるということを忘れてはいけない。むしろ多数の国が、基本的な注意で安全に旅行できるのである。海外安全情報は、邦人保護のために外務省が発信している非常に大切なものだが、ただ情報を鵜呑みにせずに参考として活用し、最終的には自分の身は自分で守ることを肝に銘じ、アフリカ諸国の旅行を試みてほしい。アフリカ諸国を訪れることで、アフリカに対するまなざしが変わるはずである。