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NPO法人IFE

日本語教師の窓

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お便り 119 - 5月前半

笠井先生 編

2012年5月1日(火)ことば

暦もとうとう5月。私の任期もあと 2ヶ月となりました。今日は平日ですが、メーデーで授業がお休みなので、この機会にベナンの「ことば」事情について書いてみたいと思います。

ベ ナンでは公用語のフランス語に加え、フォン語、ダサ語、バリバ語、デンディ語など、50近い現地語も人々の生活の中で使われています。現地語は多様で、隣 の町では全く違う言語を話し、互いの現地語では意思疎通が取れない場合もあります。異なる現地語を母語に持つ人同士の橋渡しとして、フランス語が機能して いるという状況です。

現地語が家庭内で教えられるのに対し、フランス語は学校で教育が行われます。フランス語教育は小学校 1年生から始められます。そして特に 1年生の間は 1週間30時間の時間割のうち、ほとんどがフランス語教育に当てられます。こうして子ども達は現地語とフランス語のバイリンガルになっていくのです。日本 の子どもが英語を学ぶのと大きく違う点は、フランス語が日常に溢れている環境にあるということです。テレビをつけても、CDを聞いても、新聞を見ても、本 を読んでも、ヤイボニ大統領のスピーチを聞いても、フランス語が目や耳に飛び込んできます。また子どものフランス語教育に熱心な家庭では、家庭内でもフラ ンス語を使うようにしているそうです。今後は現地語が話せない子どもが増えていくのかもしれません。

公用語のフランス語と現地語がどう使い分けられているのかは、1年ベナンに住んでみてもよくわかりません。大原則としては、聞き手、読み手に自分と異なる現地語を母語に持つ人が含まれる可能性のあるとき、フランス語が選択されるようです。よって仕事、出版物など、不特定多数と関わる際には概ねフランス語が使われているようです。しかしマーケットや商店など、その地域の人々を相手にする人達は、現地語を使う傾向にあります。

複雑なのはお互いに共通の現地語があることが分かっている間柄でも、フランス語を使う場合があるということです。ひとつ目は、直接の話し相手ではないにしろ、その場に異なる現地語を母語に持つ人がいた場合です。その人にも会話を公開する意味で、フランス語で話す傾向が見られます。ふたつ目は現地語で話した内容を理解したか確認したい場合です。例えば目的地までの道順を現地語で説明したあと、今度は全く同じ説明をフランス語で行います。これにより聞き手の理解をより確かなものにしようとするためのようです。

このようにいくつか法則のようなものはあるのですが、同じ 2人が同じ場面で話していても、フランス語と現地語は頻繁に切り替わります。また両者を混ぜて話すこともあり、フランス語と現地語の使い分けは複雑なものとなっています。

日本語でも方言でしか言い表せないニュアンスがあるように、現地語でもフランス語では言い表せない何かがあるはずです。私の片言のフォン語を聞いたときの、『日本人がフォン語を話した!』という驚きの、好奇の、そしてどこか嬉しそうなコトヌーの人々の目を見るたびに、便利なフランス語と、温かい現地語が共存していくことを願わずにはいられません。

笠井

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