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お便り 103 - 9月前半
笠井先生 編
2011年9月12日(月)いってらっしゃい、オバグさん
今日、ベナンからまた一人学生が日本へ向けて出発しました。名前はオバグさん、共立女子大学へ1年間留学します。たけし日本語学校では、毎年一人の女子学生が共立女子大学へ留学しています。
オバグさんは2006年から日本語の勉強を始め、二つの大学に通いながら勉強を続けた努力家です。またオバグさんの大学には学園祭というものが無かったそうなのですが、学園祭を開催したい彼女は学長と直接交渉し、さらに実行委員長までしてしまったという非常に行動力のある人です。
そして彼女の明るい性格はいつもクラスに明るい雰囲気と笑い声を添えていました。学校の行事にも積極的に参加し、盛り上げ役を買って出てくれました。クラスを超えて学校のムードメーカーだったといっても過言ではないでしょう。
そんな彼女が苦手なことは時間を守ることでした。
私は今学期、オバグさんのプライベートレッスンを担当していました。その初日、約束の時間を過ぎてもオバグさんは現れません。話には聞いていたが、いきなりか・・・。私は今後のことを考えると頭が痛くなりました。
結局10分ほど遅れて彼女は現れました。私が注意しようとすると、その前に彼女から謝ってきました。
私は時間を守らない人は日本で信用されないという話をオバグさんにしました。日本にはベナン人が少ないですから、日本人はオバグさんを見てベナン人がどんな人か考えます。オバグさんが時間を守らなければ、ベナン人は時間を守らないと思われます。日本人にベナン人は信用できないと思われたら、悲しくありませんか。
この話を理解してくれたのか、留学が近づいて意識が変わったのか、それ以降二度とオバグさんが遅刻することはありませんでした。日本人のような10分前行動で、私より先に教室に来ていることもしばしばでした。
さあいよいよ出発の時が近づいてきました。空港にはクラスメート、家族、オバグさんを知る人々が駆けつけています。家族から声をかけられ、オバグさんは少し涙ぐんでいます。そしてオバグさんが私たちと言葉を交わそうとしたとき、突然オバグさんはゾマホンさんに手を引かれいなくなってしまいました。
えっ・・・
オバグさんはずんずん搭乗ゲートへと進んでいきます。どうやら係員に搭乗を促されたようです。私と永田先生はあわててその後を追い、学生達のメッセージが入った小瓶と写真が入ったCDを手渡しました。
どんどんオバグさんの姿が小さくなっていきます。私たちはオバグさんが見えなくなるまで、ずっと手を振っていました。オバグさんの留学生活が実り多いものになるよう祈るとともに、ベナン帰国後のオバグさんの活躍を切に願います。
最後になりましたが、受け入れ先である共立女子大学の関係者の皆様、そして支援者の皆様に、この度オバグさんの留学が無事実現できましたことを、心より感謝申し上げます。ありがとうございました。
笠井
2011年9月14日(水)新クラス受講者受付中
現在10月から開講する新クラス、すなわち初めて日本語を勉強する人たちのクラスの受講希望者を募っています。今日秘書のボサさんに希望者リストを見せてもらうと、すでに40名に達していました。
日本や日本語に関心を持ってもらえるということは、本当にありがたいことだと思います。一人でも多くの人に勉強して欲しいし、勉強を続けていって欲しいと思います。しかしその一方で、わたしはたけし日本語学校で日本語を教えるうちに、ある思いを抱くようになりました。
わたしが今まで日本語を教えた教育機関は学生から授業料を徴収し、それを運営資金にしていました。つまりそこから職員、教師の給料を払っているわけで、学生の増減は機関の死活問題でした。よって一人でも多くの学生を獲得すること、少しでも長く勉強を続けてもらうことは非常に重要でした。
しかしたけし日本語学校は学生から授業料を頂いていません。それは全ての人に学ぶ機会を与えたいというゾマホンさんの思いからです。
では何のためにたけし日本語学校は学生を募るのか。それは日本語学習者の中から人材を発掘、育成するためだと私は考えています。人材とは農業、電気、水、医療、工業、それぞれの専門分野で、自分の利益だけでなく、他の人の利益を考えて働くことが出来る人を指します。
今年の1月から学校のルールが厳しくなったのですが、その意義の一つが人材発掘、育成にあると私は考えます。
『遅刻・欠席の際は必ず連絡する、連絡無しでの15分以上の遅刻は授業参加不可、無断欠席 3回で除籍。』
この異文化のルールに対して、拒否反応を示す人はあっという間に辞めていきます。それを無視しようとする人は、言い訳をしたり、教師に対して反抗を示したりしますが、やがて嫌気が差して辞めていきます。そうして自らを律することができる人、異文化に適応できる人、この学校の意義を理解してくれる人が残るのです。残念ながらその残って長く続けてきた人の中からも、時々心が折れてしまう人が出てくるのですが・・・。
私は日本語や日本文化を一人でも多くの人に伝えるということも重要な仕事だと考えています。しかしその一方で、最低限のことをしない人には厳しい態度で接さなければならないと思います。それがたとえ学生を減らすことになったとしても、です。
『1000人の不真面目な学生より、10人の真面目な学生を』
人数が少なくてもいい、その中からベナンの将来を担う人材が育成できれば。ゾマホンさんの言葉にはそういった思いが込められている気がします。
もうすぐ今学期が終わろうとしています。もっと学生にも、自分にも厳しくならなければ、そう思っています。
笠井